構造医学認定講師 林田一志
構造医学認定講師 林田一志
ITSUSHI HAYASHIDA 林田 一志

医学博士 / 日本構造医学研究所付属臨床センター 元部長 / 一般財団法人構医研究機構 現理事長 / 構造医学認定講師
21年前に構造医学と出会い、吉田勧持先生に師事。付属臨床センターで8年間臨床経験を積んだ後、大阪にて高槻クリニカルルームを開業。以降臨床の傍ら研究だけでなく次世代への教育も精力的に行っている。

気付かれないうちにこっそり予防している

構造医学から学びえたことはたくさんありますが、臨床家として診療の根幹を為したのは、特に部分ではなく人全体、個体の維持と存続のための原理原則が分かったことです。次に、変化する患者さんへの最善の対処の原則が分かってきたということが挙げられます。

三つめは体の傾向を読み取って、傷害の予測と予防的対処が出来るようになったことです。構造医学を体系化する学問の中で物理の法則というものがありましたが、あれは生きものであろうが物体であろうが共通して働く力を指しています。これを体に適応して、体の傾向性を法則に照らし合わせて診療するということは、現状の他にこの先どうなるのかという予測をすることが出来るんですね。

1 人全体(個体)の維持、存続のための原理原則が分かる
2 変化する患者への最善な対処の原則が分かる
3 体の傾向を読み取り、傷害の予測と予防的対処が出来る

例えばASやPItなど今後学ばれると思いますが、患者さん個々の体の傾向を読み取ることが出来ると、その人がどのような捻挫や転倒をしやすいかなどを予想することが可能です。先手を打つ治療が出来るだけではなく、この【予防的対処】は患者さんの自覚なしに進めることが出来るんですね。構造医学にはそういった面白さもあります。

昨今は結果に対して対処する医療が基本です。病理学的対処と言いますが、これは出来上がったものに対してのみ対処する医療です。転倒するだろうという予測に対して、事前に予防手段を取ることが出来ない。

構造医学では患者さんの身体を本人の意識とは別に地図みたいに読み取って、患者さんが意識せずけがの原因になるような癖や習慣を治せるので、私は診療していて面白いし、やりがいも感じられます。

体の細部と全体が地図のようにつながって見えるようになった

もちろん、今問題の起きている箇所だけを治すことも可能です。ですがその箇所だけ治しても他の影響ですぐに元の悪い状態に戻ってしまうので、やはりきちんと直すにはその箇所だけではなくて周りの環境を整える対処も必要なんですね。患者さん個々の身体を地図のように読み取ることが出来るということは、周囲への対処も容易に出来るということです。

ここまで分かると治療も自分で展開していけますのでその喜びも感じることが出来ます。

自己満足やお金ではなく、患者のために学ぶ。それが経営にもつながる

学習の仕方は主に3種類に分類されます。学校で行われているのは経歴獲得型学習です。皆さんも経験されたように、答えが既にあるものについて、その答えや解き方を覚えて、試験に臨むという流れです。だから特に学校を出てすぐの方は、経歴獲得型学習に慣れているわけですね。

先述のように経歴獲得型学習から自分で学習や治療を展開できるようになると知的好奇心型学習にカテゴライズされます。これがずっと続いていくと自分が満たされていく喜び、自己満足があります。

私はもともと基礎研究をずっとしていまして、あとは疫学とかいろいろ手を出したんですけど、やっぱり研究者向きなんですね。分からないことを知るのが楽しくて仕方ない典型的な自己満足型学習の人間ですが、でもやっぱりそれを人の役に立てたいという欲があります。基礎研究はいつまで経っても目に見える人の役にはなかなか立てないので臨床に戻ってきたわけです。

臨床に戻って診療を続けていくと波があります。患者さんとの関係がいい波に乗ってずっと続いていく時と、ぎくしゃくしてストレスが溜まる時があるんですね。これを分析してみると、自分のやっていることが面白くてたまらない時は自己満足型学習を行っているみたいなんです。患者さんの本当のつらさとか問題に思っていることをあまり聞いていなかった気がします。だから「なんでこれだけちゃんとやってるのに文句ばっかり言うんや」とか思って、腹を立てたこともあります。でもふと我に返ると、自分勝手なことばかり自己満足で、患者さんの求めるものはそっちのけでやっていた時期がありました。

でも、やはり我々の仕事は相手あってのものです。構造医学でも「人の健康に資する」という目的行為があります。この目的を達成するには患者さんの求めるものに対してしっかり応えていかないといけないんです。なので知的好奇心でもいいからしっかり学ぶことが大切です。学んだことを患者さんに還元して社会貢献をしていくともちろん経営も上手いようにいきますし、患者さんとの関係も良くなりますね。我々の仕事は信頼関係の上で成り立つものなので、事業拡大だとか売り上げ目標だとかを目指すのではなく、まずは目の前の患者さんを治していって、その結果経営を続けることが出来るという方が健康的だと思います。患者さんも診療者のお金のために治療するのか、治療の結果お金が生まれるのかといった理念などはすぐに読み取られるので、ビジネス一辺倒で診療にあたるより健康的に経営を行う方がいいと思います。

自分の生き方に合わせて治療者の理念を育み、人生の目標に近づいてほしい

これから新しく学ばれる先生方は今までの自分の生き方がありますでしょう。それをベースに自分の診療者としての理念を育てていってほしいんですね。何度も言いますけれどやっぱり自分の生き方と一致させた方が楽しく健康的に仕事も出来ますし、つらいことからも逃れずに乗り越えていくことが出来ると思うんです。隣の芝は青いじゃないですけれど、他の先生方を見ると軌道に乗って上手くやっているように見えますが、他の先生方と比べずに自分の構造医学を作っていってほしいと思います。

そのためには考え方や基礎力、技法もそうですし、患者さんとの対峙・対処の仕方もそうですがまずは基本の土台をしっかり作ってほしいんです。土台をしっかり作って今度いろんなことをする中で、いつも逃げる癖だとか、得意なところとか、自分を良くして持ち味をこの土台の上に乗せて、自分の中に構造医学を作っていってほしいです。そうすると先生方のそれぞれ一番良い持ち味を持った臨床家になれると思うんです。それに対して患者さんが着いてきてくれるんですね。

時間はどんどん進んでいきますし、我々も年を重ねていずれは引退します。患者さんもいくら一生懸命見てもやっぱり寿命が来て亡くなられます。そういう時間との闘いは自分の中の構造医学を確立させた続きにあって、自己修正と更新をしながら、身体を健康な状態に保ちながら成長しないといけません。そして、自分の生きている目的に少しでも近づけるように生きていただきたいなと思います。

特別講義

構造医学を初めて学ぶ方に向けたこの講義は、初学者が戸惑いやすい学習の方法や無数にある解釈に触れ、多くの受講者から情報を得ることが大切だと述べています。
既に構造医学を学んでおられる方は、一度ご自身の治療や臨床者としての自分を見直すきっかけになるかと存じます。是非ご覧ください。